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東京地方裁判所 昭和25年(行)73号 判決

原告 上村重人 外七一名

被告 東京都教育委員会 外三名

一、主  文

被告東京都教育委員会が、原告伊神正夫、同金子霊学、同弘中高順、同新井実に対し、いずれも昭和二十五年二月十五日付をもつてなした各休職処分並びに右四名及び原告山下文子、同熊本俊雄、同片岡並男、同寺坂イチ、同土屋延子、同田中美世子、同石橋勝治、同渡辺久春、同小松原正辰、同坂田未成、同千葉佐家江、同羽生マツ、同柳瀬良水、同石井文子、同田中さかゑに対し、別紙第一目録該当欄記載の日附をもつてなした各免職処分の取消を求める請求は、いずれもこれを却下し、その余の原告等の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「被告東京都教育委員会が、原告遠藤幸一、同安藤魁二、同谷中美都の三名を除くその余の原告等に対し、それぞれ、別紙第一目録中該当欄記載の日附をもつてなした免職の処分及び原告伊神正夫金子霊学、弘中高順、新井に対してなした昭和二十五年二月十五日附の休職処分はこれを取り消す。被告東京都墨田区長が原告遠藤幸一に対し、被告同都世田谷区長が原告安藤魁二に対し、被告同都中野区長が原告谷口美都に対し、それぞれ昭和二十五年二月十五日付をもつてなした解職処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

被告東京都教育委員会(以下単に被告委員会と称する。)は昭和二十三年法律第百七十号教育委員会法に基き東京都に設置され、同法第一条の目的を達するため、同法第四条の権限を有し、同法第四十九条以下第五十二条に定める事務を行うもので、殊に同法第四十九条第五号により校長及び教員の任免その他人事に関する事務を行う権限を有する。

原告等はそれぞれ被告委員会の所管する別紙第二目録中処分前の勤務校欄記載の小学校又は中学校に所属する教員であるが、別紙第一目録中各該当欄記載の日附をもつてその頃それぞれ休職、免職又は解職(以下単に免職という。)の処分に付する通告を受けた。

原告等が右各処分の通告を受くるに至つたいきさつは次のとおりである。すなわち、かねて教育行政の面では昭和二十四年夏頃から全国的に教員の政治的馘首の問題が起り、東京都においてもいわゆる整理馘首を行う意図が察せられたので、原告等の属する訴外東京都教職員組合では教育民主化のため日本再建のためには「教職員に可能な限り身分と自由の保障が必要である」として同年十月以来被告委員会に対し要請書の提出その他により活溌に政治的人員整理反対の運動を行つてきた。ところが被告委員会は前記要請その他の反対を省みずついに昭和二十五年一月二十日その所管する東京都下中、小学校の教職員についていわゆる「刷新基準要綱」なるものを審議成立させ、同年二月十三日を期し原告等を含む計二百四十六名の教職員に対し右要綱に該当するとの理由をもつてその所属学校長を通じ一斉に、下記の方針にのつとり辞職勧告を行つた。右要綱なるものは「(一)勤務成績不良のもの。1職務を怠るもの。2欠勤、遅刻、早退の多いもの。3無断で勤務を離れるもの。(二)職務能力の低いもの。1教授能力の低いもの。2教育えの熱意を欠くもの。3教員として信用、品位を失い成績をあげることのできないもの。(三)学校経営上非協力のもの。1法令或は指揮監督者の正当な命令を守らないもの。2学校の教育方針又は民主的運営に協力を欠くもの、3学校を拠点として、又は教育の身分を利用して一党一派に偏した政治活動をする傾向が強く、教育上支障のあるもの。」というのであり、右辞職勧告の方針としては大要(一)同月十五日正午までに退職願を提出して退職せよ、(二)これに応じなければ同日付をもつて休職、又は解職処分にする、(三)但し同月二十日までに退職願を提出すれば右の休職又は解職処分はないこととし依願免職の取扱いをする。なお、今回の依願免職については普通退職金の平均二、三倍の額を支給するということであつた。そして別紙第一目録記載欄に日付の記載のないものは右二月十五日までに退職願を提出したものであり、その他のものは一旦勧告を拒否したので前記刷新基準要綱に該当するものとして同日付で休職(原告安藤魁二、谷口美都については解職)を命ぜられたが、その後退職願を提出し同目録免職欄記載の日付で依願免職とされ原告伊神正夫、金子靈学、弘中高順、新井実を除くその余の右休職及び解職の処分は取消されたものである。(原告等のうち遠藤幸一、谷口美都は助教諭、安藤魁二は専任講師で、これら助教諭及び講師の任免は被告委員会から区長に委譲されているので、それぞれ所属の東京都墨田区長、同都世田谷区長、同都中野区長が右の者等の解職処分を行つた。)

ところが、右原告ら四名の休職処分は昭和二十六年六月十六日改正前の教育公務員特例法(以下特例法という)施行令第九条、地方自治法附則第五条に基き官吏分限令第十一条第一項第四号「官庁事務の都合に依り必要なるとき」とあるを準用してなされたものであるが、それは次の理由によつて違法である。

そもそも右地方自治法附則第五条は「他の法律に特別の定めがあるものを除」いているものであるが、右特例法附則第二十三条第二項(但し昭和二十六年六月十六日改正前のもの)によれば「この法律中の規定が、国家公務員法の規定に矛盾し又はてい触すると認められるに至つた場合は、国家公務員法の規定が優先する」と規定されており、この規定は特例法第三条にいう「国家公務員としての身分を有するもの」のみに制限せられたものでなく、特例法全体についての一般的規定であることは文理解釈上明らかであるから、「地方公務員としての身分を有するもの」たる原告等にも当然その適用があるものといわねばならない。しかして特例法第十四条には、大学以外の学校の校長及び教員の休職期間及び効果に関する特例が定められているが、特例法上他に、本人の意に反する降任、免職、休職の場合について定めた規定は見当らない。従つてこれらについては国家公務員法第七十八条(本人の意に反する降任及び免職の場合)及び同法第七十九条(本人の意に反する休職の場合)が適用されるもので、前記特例法附則の規定の趣旨にかんがみれば、地方公務員として身分を有するものについてのみ異別に扱うべき理由なく、前記官吏分限令等との関係においては右国家公務員法の規定が優先適用されるものである。しかも改正前の特例法第十五条第三項によれば「任命権者が校長及び教員に対しその意に反して」いちじるしく不利益な処分を行う等の場合については国家公務員法第八十九条から第九十二条第二項までの規定が準用されている。それにも拘らず前記のように官吏分限令の準用ありとして「官庁事務の都合により」自由に不利益な処分が行われるとすればこの特例法の規定は無意味となるか、甚しくその精神を没却されることになる。

のみならず被告委員会は原告等に対し別紙第二目録「休職処分の理由(該当基準項目)」欄に記載の事実があつたことを休職処分の理由としているが、原告等は前記刷新基準要綱のいずれにも該当するものではない。

従つて右原告等に対する休職処分はいずれにしても違法である。

次に、原告等に対する前記免職の処分も次の理由により違法である。

先ず、右免職は原告等から退職願があつたことによるものとされているが、その退職願なるものは決して原告等の真意に出でたものではない。原告等はもとより生活上の余裕のないものであるのに、前記のように退職願を提出しないかぎり休職処分(原告遠藤幸一、安藤魁二、谷口美都については解職)に付され、(被告委員会は不当にも初から校長に依願免職と休職の二つの辞令を預けていた。)しかも休職となるときは本俸の三分の一を支給せられ、一年後には自然退職となりその際普通退職金を支給されるに過ぎない。原告等はいずれも生活に窮していて本俸の三分の一程度では到底生活を維持することはできない。のみならず休職中は依然として公務員であるために他の職業にも就けず、これに反し退職願を提出すれば即時に普通退職金の二、三倍に上る額が支給されるという事情もあつて、原告等は必らずしも形式退職願を提出する外はなかつたものである。(右のような状態で退職願を出さずに休職処分を争いそれにつき審査を請求せよ、訴訟で斗えといつても通常人には期待することはできない。従つて整理に不服であり、あくまで争う者も一応退職願を出さざるをえなかつた。しかも、よし噂にしろ、退職願を提出しないと懲戒免職にされるという懸念すらあつたのである。)これをいいかえれば、原告等は前記不当違法な休職処分をもつて生活を脅かされ、不当な強制をうけて意思決定の自由を殆んど抑制され、真に一時のやむをえざる方便として退職願を提出したものに外ならない。現に原告等の所属する前記東京都教職員組合は原告等に対する本件免職等の処分を含む今次整理について終始反対しつづけ、その方針によつて被告とも交渉してきたのである。(右組合が被整理対象者の退職手当とか、勧告受諾期日の延期とかについて被告と交渉を重ねたことはあるが、もとよりそれは組合として整理こ同調し承認を与えたというのでなく現実に発生した事態の中で被処分者等に幾らかでも有利に斗い易くさせたいためであつた。)組合がかかる情勢にあるときに被処分者たる原告等がこの処分に反対していたことは当然であり、それは単に当初反対であつただけでなく、いよいよ退職願を出すに当つても、いずれもこの処分は不当であり不満ではあるが、やむなく退職願を出す旨を校長に告げてその意思を明らかにしており、多くの者はさらに今後も復職に向つて斗う旨を言明している。(又そのうちには本人のみならず組合(所属分会)等においてもそれに尽力することを明らかにしている。)かような次第で原告等の退職願がその意思と一致しないものであることは明らかであり、処分関係者においても右事情は充分これを了知していたものである。

以上の次第で、原告等に対する依願免職処分は前提たるその申出が真意に基かずなされたものか、少くとも前記のようにいちぢるしく不当な強制に基き事実上意思決定の自由を喪失した間においてなされたもので、これに基く処分はもとより違法である。

しかもこれら処分は前記官吏分限令第三条第一項第二号の自己の便宜により免官を願出たるときは「その官を免ずることができる」とある、その規定に基きなされたもので、準拠法令の適用上もとより違法のあることは前記休職処分におけると同様である。

以上のとおり原告等に対する前記休職及び免職の処分はいずれも違法のものであるので、原告等は右特例法第十五条第三項にのつとり、別紙第二目録該当欄記載の日に各自被告東京都教育委員会に適法な審査請求をなしたが、同目録該当欄記載の日に却下されたため、これを知つた日から法定の六箇月内に、(尤も、原告堀田量、同安藤瑞子、同田中サカエ、同渡辺久春については裁決がないが、審査請求の日から三箇月を経過している。)処分庁たる各被告を相手として右各処分の取消を求めるものである。

原告ら訴訟代理人は、被告等の主張に対しては次のとおり述べた。

被告等は本件免職の処分は原告等からその意思に基いて適法に退職願があつたがためになしたもので前記特例法第十五条第三項にいう「その意に反して……免職し、その他……いちじるしく不利益な処分を行」つたものに該当せず、審査請求の要件を充たさないものであるから、原告等が右処分を不服としてなした審査請求は、これを受理して裁決すべきかぎりでなく、被告委員会はその請求をそのまま返戻したものであるという。しかしながら、原告等が退職願を提出したのは前記のような事情に基き万やむをえずなしたもので、決して任意に出でたものと同一に論じえないものであり、その身分上等に及ぼす影響等を考慮するときは、もとよりその意に反した免職処分、ないし、いちじるしく不利益な処分というに妨ないものである。従つて、右各処分については審査の請求(行政庁に対する不服の申立)が認められる場合に当り、被告委員会は原告等の審査請求を受理して審査し裁決すべきものであつたのである。しかるに前記のように被告委員会が審査請求書を返戻する旨決議しそうした措置は、とりもなおさず、審査請求を却下したもの、ないし、これと同一視すべきものという外はない。従つて裁決告知より六箇月間の出訴期間は右審査請求書の返戻のあつたときから起算すべきであつて、原告等はその期間内に出訴したものである。原告弘中、新井、伊神がいずれも被告主張の日に審査請求を取下げたことは認める。しかし、同人等はいずれも昭和二十五年五月二十五日に再び審査請求書を提出し、同年六月二十日これを却下されたものである。田中サカエは審査請求書と題した書面を提出しなかつたのは事実であるが、処分説明の事由が納得できないとの理由によつて審査を求める趣旨で再調査願と題する書面を提出したのである。(立証省略)

被告等訴訟代理人は、第一次に「原告等の請求を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を、第二次に「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、次のとおり陳述した。

被告東京都教育委員会(以下単に被告委員会と称する。)が原告主張のような権限を有すること、原告等が被告委員会の所管下にある原告等主張の小学校又は中学校に所属する教員であつたこと、同人等がその主張の日付をもつて、被告委員会又は同委員会より委譲せられた被告区長等から、それぞれ休職、免職又は解職の処分に付せられたこと、右各処分は、被告委員会が原告等主張のように「刷新基準要綱」を定め、これに基きその主張のような勧告方針にのつとり原告等に辞職勧告を行い、その結果なされ原告伊神、金子、弘中、新井を除くその余の原告等については依願免職又は依願解職の処分と共に先に為された休職又は解職の処分の取消されたものであることは、次の点を除きいずれも原告等のいうとおりである。原告小林金治、小松崎英夫、堀田量、安藤瑞子、小松原正辰、金子清治については休職辞令は発せられなかつたものである。そして、右各処分は原告等のいうとおり、地方自治法附則第五条等に基き官吏分限令の規定を準用してなしたものであり、かゝる官吏分限令の規定を準用してなした処分に対し被処分者において不服があれば、昭和二十六年六月十六日改正前の教育公務員特例法(以下単に特例法という。)第十五条第三項によつて審査請求が認められていたことは、もとより争わない。

しかしながら、原告等の請求はいずれも以下述べるように訴の訴訟要件を欠くか又は実質的理由がないもので所詮排斥を免れないものである。

一、原告弘中高順は休職処分の日(同時に処分説明書交付の日)から三十日以内の審査請求期間内である昭和二十五年三月九日、原告伊神正夫は同じく審査請求期間内である同月十三日、原告新井実は同月十六日、原告金子靈学は同月十七日、いずれも休職処分に対する審査請求をなしたが、新井は同年四月二十八日、伊神及び金子はいずれも同年五月九日、弘中は同月十五日、いずれも右各審査請求を取下げたものである。そして弘中、新井はその後同月二十五日再び審査請求書を被告委員会に提出したが、すでに審査請求期間を経過していたため、そのまま同年六月二十日これを返戻したものである。(伊神、金子はかように再び審査請求書は提出しなかつた。)いずれにしても、この四名については、休職処分に対する出訴の要件たる審査請求を有効に経ていないものに帰するので、この点においてその取消請求はすでに不適法である。

二、依願免職又は依願解職の処分(以下依願免職というときは依願解職をも含めるものとする。)については、原告等がその主張の日付をもつてこれらの処分に付せられたことは前記のとおりであり、それらの処分が辞令の交付伝達によつて効力を生じた日は別紙第四目録該当欄記載のとおりである。しかして原告等はみずから退職を申出で辞令の交付を受けているものであり、後記のような多額の退職金も受領しているものであるから、右処分はもとより前記改正前の特例法第十五条第三項にいう「任命権者が、校長又は教員に対し、その意に反して……免職し、その他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い」とあるものに該当せず、従つて右の依願免職の処分は審査請求の対象とならないもので、所詮この場合は行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる「行政庁に対する不服の申立のできる場合」に当らない。よつて、その処分を争うものは直接裁判所に取消訴訟を提起する外はないものである。しかるに、原告等の処分の告知のあつた日は前記のとおりであり、その日から六箇月以内に訴を提起すべきところ、本訴が提起せられたのは昭和二十五年十月十七日であるから原告等のうち伊神正夫、金子靈学、新井実の三名を除くものについては、出訴期間を経過しているものである。

もつとも、原告等のうち右三名及び弘中高順、渡辺久春、堀田量、安藤瑞子、石井文子、田中さかえを除くものは、別紙第三目録該当欄記載の日に、被告委員会に免職処分に対する審査請求書を提出したが、原告等は前記のように、みずから退職を願出で、依願免職の辞令を受け(既に休職又は解職の発令をしたものには、同時に休職又は解職の処分を取消していることは前記のとおり。)、しかも後日、普通の場合より平均二、三倍増額の退職金の交付を受けているものであるから、右のように依願免職について審査請求書が提出されたとしても、これを受理して審査し裁決すべきかぎりのものでないことは前記のとおりであるので、被告委員会は昭和二十五年六月八日原告等の審査請求書をすべて受理しないことに決定し、その旨の書面を付してこれを同月十五日それぞれ本人に返戻したものである。(前記伊神、金子、弘中、新井、渡辺、堀田、安藤、石井、田中等は依願免職について格別審査請求書を提出していない。田中さかゑは前記のように休職処分を受けた後事実を今一度調べてもらいたいと申出でた――審査請求ではなく調査願――のみである。)

三、かりに、上記本案前の主張が理由がないものとしても、被告等のした各処分は原告等のいうような違法の点はないものである。

先ず、(一)、被告が原告等に対し休職又は免職の処分をなしたのは国家公務員法によつたのではなく、地方自治法附則第五条に基き官吏分限令によつたものであることは前記のとおりであるが、原告等は右は準拠すべき法令を誤つたもので、この点において、その処分はすでに違法である、という。そして、なるほど、地方自治法附則第五条は他の法律に特別の定がある場合を除いて適用されることになつており、当時施行の教育公務員特例法附則第二十三条第二項には「この法律中の規定が、国家公務員法の規定に矛盾し、又はてい触すると認められるに至つた場合は、国家公務員法の規定が優先する。」とされ、右特例法では、公立学校の教員の免職、休職等の処分については、任命権者たる、所属学校を所管する教育委員会が、右各処分を行う、とされているに過ぎないことは原告等のいうとおりである。しかしながら原告等は右特例法第三条にいう、地方公務員としての身分を有するもので、国家公務員としての身分を有するものではない。従つて国家公務員たる職員について適用すべき国家公務員法を原告等に適用すべきものではない。右教育公務員特例法附則の規定も将来、国家公務員法又は右特例法の改正もしくは運用によつて特例法の規定が国家公務員法の規定に矛盾し又はてい触すると認められるに至つた場合に限つて国家公務員法の規定が優先するという規定であつて、地方公務員たる者にまで国家公務員法の規定が優先適用のあることを定めたものと解すべきではない。さればこそ改正前の教育公務員特例法施行令第九条にも公立学校の教育公務員の服務については、法に別段の定のあるものの外、当該都道府県の吏員の例による旨を定められていたゆえんである。然らば、地方自治法附則第五条にのつとり、官吏分限令を準用してなした本件休職又は免職の処分はなんら準拠法令を誤つたものではない。

次に、(二)、原告等は本件免職処分は、その前提となる退職の申出がその意思を欠きなされたものか、ないしは強迫に基き意思決定の自由を失つた間になされたものであるという。しかし、さような事実はなく、もとより原告等の瑕疵のない意思に基き退職の申出があつたがために、依願免職としたもので、この処分は適法有効のものである。

或は原告等は、その退職の申出が真意に基かないことをみずから知つてなしたものと主張するようであるが被告はさようなことは全く知らず又知りうべかりし状態にもなかつたものであり、又その申出がいわゆる虚偽表示に基くものであるというのであつても、その申出を受けた被告としてはさようなことは全然関知しなかつたものである。原告等は右退職申出は少くとも不当な強迫によりほとんど意思決定の自由を失つた状態においてなしたものでこれに基く依願免職処分は違法性を帯びるものであると主張するようであるが、かかる強制強迫を加えた事実はもとよりなく、原告等は被告が伝達機関たる公立学校長を通じてなした退職勧告に応じ退職願を提出したものである。

元来被告は今次措置に当り昭和二十五年二月八日公立学校教職員刷新基準に該当する教職員二百四十六名に対し学校長を通じ退職の勧告をなし、これに応じ退職願を提出した者に対しては同月十五日付で退職処分をなし、勧告に対する諾否を決定すべき日(通常右十五日)から五日以内に退職を申出でた者については円満受諾の取扱をし右十五日付で依願退職を発令すること(この場合休職処分は取消すこと)、なお同年三月三十一日までに退職を申出で円満受諾の取扱を希望した者に対してはやはり依願免職とする(但しその間の休職処分は取消さないこと)又右三月三十一日までに一応退職願を提出し退職留保を希望したもので同年五月十五日までに正式に退職を申出でた者は右に準じて取扱うことを決定し、原告等はいずれも右に応じてそれぞれ退職の申出をし依願退職となつたものである。そして原告等は右退職によりそれぞれ所定の退職金の交付を受けていることは前記のとおりである。右の次第で原告等は充分退職する意思をもつて退職願を提出したもので、これに基く被告の免職処分はもとより違法ではなく、原告等の本訴請求は、いずれにしても排斥を免れない。(立証省略)

三、理  由

一、被告東京都教育委員会(以下単に被告委員会と称する)が原告のいうような権限を有すること、原告等が被告委員会の所管する原告等主張の小学校には中学校に所属する教員であつたこと原告伊神正夫、同金子靈学、同弘中高順、同新井実に対し被告委員会が昭和二十五年附にて休職処分をなし、その頃右原告らがその告知を受け、原告遠藤幸一、同安藤魁二、同谷口美都に対し、被告委員会より任命権限の委譲を受けている被告区長らがそれぞれ原告ら主張のように昭和二十五年二月十五日附にて依願解職の処分をなし、右原告三名を除くその余の原告らに対し、被告委員会が別紙第一目録の免職日欄記載の日時附にて依願免職の処分をなし、それぞれその頃原告らがその告知を受けたこと、右各処分は被告委員会が、原告等主張のように、「刷新基準要綱」を定め、これに基きその主張のような勧告方針にのつとり、辞職勧告を行い、その結果なされたものであること、そしてこれら処分は、地方自治法附則第五条等に基き官吏分限令の規定を準用してなされたものであることはいずれも当事者間に争がない。

二、よつて先ず原告伊神正夫、同金子靈学、同弘中高順、同新井実の休職処分について見るに、同人等がいずれも右休職処分に対しそれぞれ被告主張の日に、被告委員会に審査請求をなし、いずれも被告主張の日にその審査の請求を取下げ、且つ弘中、新井の両名のみはその後同年五月二十五日再調査願を提出したことは、成立を認められる乙第四号証の一乃至十、第五号証の一乃至五に徴して明らかである(尤も右四名が法定の期間内に審査請求をなし、原告伊神、弘中、新井三名が右のように審査請求を取下げたこと及び弘中、新井両名が右のように再調査願を提出した点は当事者間に争がない)もとより、右のように休職処分を受けた者が被告委員会は法定期間内に審査請求をなしうることは改正前の教育公務員特例法第十五条第三項により明らかであるが右の四名の者は、いずれも一旦なした審査請求を取下げ、更にその中の弘中、新井が後に再調査を提出した時には、既に法定の三十日を経過していたことが明らかであるから(右再調査願を再審査請求と解するとしても)同人等四名は所詮その休職処分について審査請求を有効に経ていないことに帰するものである。しかしてかように審査請求の認められる場合には、特段の事情がないかぎり、その裁決を経た上でなければ出訴できないことは行政事件訴訟特例法第二条の定めるところであるから、右のように審査請求を経ずになす休職処分の取消請求は不適法たるを免がれないものである。

三、次に、免職又は解職処分(以下免職というときは解職をも含める)について見るに、原告等がその主張の日付で免職処分に付されたことは前記のとおりであり、右の処分がそれぞれ被告主張の日の辞令の交付伝達によつて原告らに告知せしめられたことは当事者間に争がない。しかして(一)、原告らのうち別紙目録記載の(1)乃至(4)、(6)、(8)乃至(11)、(13)乃至(18)、(28)、(30)乃至(33)、(36)乃至(39)、(43)乃至(48)、(54)乃至(57)、(59)乃至(61)(66)(67)(69)(72)乃至(74)の四十三名のものについては、各自の審査請求の日についての原被告双方の主張に照し、右免職処分の告知の日からそれぞれ前記教育公務員特例法第十五条第三項による法定の三十日以内に被告委員会に審査請求をなしたことは当事者間に争なく、(二)、原告井出、奈良、大竹、上川、高屋、堀田、安藤瑞子、金子清治、小島千代子の九名のものについては右免職処分の告知の日からそれぞれ前記法定の三十日以内に被告教育委員会に審査請求をなしたことは、右原告らの本人訊問の結果に照しこれを認めることができ、原告林さくについては、同人の本人訊問の結果によれば、昭和二十五年三月十五日退職願を出し同月十七日審査請求をなしたことが明らかであるので、同人が依願免職処分の告知を受けたのが前記のように同年三月二十九日であつても、その後まで右審査請求が被告委員会に留保されたという当事者間に争なき事実に照せば、この審査請求は法定の期間内の請求と認めざるを得ない。(三)、原告山下、熊本、片岡、寺坂、土屋、田中美世子、石橋の七名のものについては、審査請求の日についての原被告双方の主張に照し、前記法定の三十日の経過後に審査請求のなされたことが明であるというべく、(四)、原告金子靈学、伊神、渡辺久春、小松原、弘中、新井、坂田、柳瀬、石井、千葉、羽生の十一名については、同人らが前記法定の三十日以内に審査請求をなしたことを認めるに足る証拠なく、また、原告田中さかゑについては、同人の本人訊問の結果に照せば、昭和二十五年二月二十日再調査願を出し同年三月二十七日退職願を出したことが明であり、同人が依願免職処分の告知を受けたのが前記のように同年四月十日であることに照せば、右再調査願を右免職処分に対する審査請求と認めるに由なく、他に前記法定の期間内に審査請求をなしたことを認めるに足る証拠がない。(原告等に対し依願免職処分告知の際、格別処分説明書の交付がなかつた点について考えるに、その告知は「願に依り本職を免ずる」との記載方式による辞令の交付によつてなされ、かたがた右処分は原告主張の経済方針による辞職勧告の結果なされたもので、原告等の多くは右勧告を拒否して一旦休職処分に付され同時にその処分説明書を受けている、以上の争ない事実に徴し、右依願免職処分に対する審査請求期間は、あえて特別に処分説明書の交付受領を要せず、右処分告知の日から三十日以内と解するのが相当である。)ところで、被告は、「本件免職処分はいずれも原告等からの願出に基くもので、その処分に対しては、右教育公務員特例法第十五条第三項による審査請求は認められず、これに不服ある者は処分を知つた日から六箇月以内に直接訴を提起する外ないもので、原告等はその期間を経過したものである。従つて、被告委員会は原告等からなされた審査請求を受理して審査し裁決すべきものでないので請求書をそのまま返戻したものだ、」という。よつて思うに、右第十五条第二項には「教員の任用、免職、休職、復職、退職及び懲戒処分については、任命権者が行う」とあり、同条第三項には「任命権者が教員に対しその意に反して降任し、免職しその他これに対しいちじるしく不利益な処分を行い、又は懲戒処分を行う場合」とある。よつて本件免職処分が右にいわゆる「その意に反する免職等の処分」に該当するかどうかについて考えるに、それが、右第三項にいう「免職」に該当することは明らかであり(依願免職といつても行政庁の行う一方処分たることにかわりなく、免職処分の外に格別依願免職という処分があるわけではない)更にこゝに「その意に反する」とは被処分者が、当該処分を自己の意思に反すると趣旨と解すべきであるから被処分者がその意に反するとして審査請求をするかぎり、これら免職処分は被処分者の「意に反する」ものというを妨げないものというべく、従つて被処分者からその意に反し、前記処分を受けた旨主張し、審査請求がなされる以上、たといその処分が願出に基くものとされていたとしても、その理由をもつて直ちに、これを審査の対象とならないものとすることはできないのである。而して証人川崎の証言(第一、二回)及び成立を認めうる乙第二、第三号証によれば、被告委員会は、前記免職処分についての原告等の前記審査請求をもつて審査の対象にならぬものとしてこれを受理しないことに決し昭和二十五年六月十五日これを原告等に返却することとしたことが認められる。然らば右は審査の対象となる処分を誤つてその対象たりえないものとの判断を示したことに帰し結局被告委員会は右理由で、たやすく、審査請求の実体に入らずこれを却下すべきものと決定したものといわなければならない。(もとより被告委員会はその旨の決定を宣しているわけではないが、いやしくも、右措置に出るを相当と決議決定しその措置に出たものである以上、形式のいかんに拘らずこれを右却下の裁決があつたものというを妨げないものである)。原告遠藤同安藤同谷口の三名については、被告委員会より任命権限の委譲を受けた被告区長らにおいて依願解職の処分をなしたことは前記の通りであるが、前記特例法第十五条第三項は国家公務員法第八十九条乃至第九十二条を準用し人事院とあるを任命権者とよみかえるべきことを規定し、国家公務員法においては任命権者以外の人事院に審査請求をなすものとしているに反し、前記特例法においては任命権者に審査請求をなすべきものとしているが、これは必ずしも処分者として審査に当らせしめる趣旨とは解せられないので、前記のように任命権限の委譲の場合にあつても審査に当るものは本来の任命権者であると解するを相当と考える。従つて右原告らの被告委員会に対する前記審査請求はこれを適法のものと考えざるを得ない。従つて前記(一)(二)の原告らについては、審査請求書返戻の日をもつて原告等のいうように裁決の日とみなすを相当とし、その返戻の日(裁決の日)がいずれも昭和二十五年六月十五日以後にかかることは争なく本訴提起の日がそれより法定の六箇月以内の昭和二十五年十月十七日であることは記録上明白である。然らばその者等に関する限り、本件免職処分取消の請求は適法のものといわなければならない。

しかし、前記(三)、(四)の原告らについては、すでに、適法な審査請求をしなかつたものであり、これを正当ずける事情について格別の主張立証もないから、その者等のなす免職処分取消請求は不適法のものといわなければならない。

四、よつて右審査請求を適法に経た前記(一)及び(二)の原告について免職処分の適否を考える。

先ず、右処分が官吏分限令を準用してなされた点について考えるに、右原告等は公立学校の教員として「地方公務員としての身分を有する」ものであるから(教員公務員特例法第三条)、教育公務員特例法第十五条第三項のように特に国家公務員法の規定の準用が明定されている場合を除いては国家公務員たる職員について定められた国家公務員法の適用を受くべきものでなく、従つて右特例法附則第二十三条第二項は国家公務員法附則第十三条に対応し「国家公務員としての身分を有する教育公務員」について、その特例法が基本法、一般法たる国家公務員法に矛盾てい触するに至るような場合は、特例法との間では、国家公務員法が優先して適用されることを定めたものに過ぎないと解すべきである。然らば右規定を根拠として「地方公務員たる身分を有するもの」についてまで、右特例法に規定のない事項は、国家公務員法によるべきものとすることはできないところであり、地方公務員についての基本法、一般法たる地方公務員法の未だ制定せられなかつた当時において、地方自治法附則第五条、当時施行の教育公務員特例法施行令第九条にのつとり、官吏分限令の規定(同令第三条第一項第二号「自己の便宜により免官を願出るときは、その官を免ずることができる。」)を準用して、本件免職処分を行つたことに、格別違法の点はないものといわなければならない。

次に、原告等は、本件免職処分は、その前提となる退職願がもともと原告等の意思に基かず又は不当な強制によつてほとんど意思決定の自由を失つた間になされた違法のものであると主張する。前記(一)及び(二)記載の原告らの本人訊問の結果及び証人三浦又三郎、荻生田美恵子、馬場保、渡辺勲、木村清、田村さかゑ、牲川薫、岡田輝、川崎亮、大谷昌幸、内田穆、片岡秀夫の各証言によれば、原告らが辞職勧告に応じなければ、休職処分に付される事情にあつたこと、休職処分に付されれば、その給与は三分の一となり他の職業につくことができなくて生活に困窮する事情にあり且休職中に懲戒処分に付せられることを危惧し得る事情にあつたこと、願により免職となるもその処分につき被告委員会、地方裁判所等において抗争し得るものと考えられていたこと及び前記原告らが以上の事由により不本意ながら退職願を提出するに至つた事情、原告らの中には校長等に対し審査請求或は訴訟により抗争する旨を明にして退職願を提出したもののあることは、これを認めることができるが、右事実のほか、右原告らが強迫され意思の自由を喪失した事情の下において退職願を提出し或は退職の意思なきに退職願を提出し、これを被告委員会或は被告区長らの依願免職の処分を伝達した各校長或は校務主任において了知していたとの事実については、これを認めるに足る証拠がない。尤も原告奈良、同藤崎、同井出の各本人訊問の結果及び成立に争なき乙第十五号乃至十七号証の各一乃至三によれば、右原告らが退職願に「この退職願には左の条件を附します。一、この退職願は一方的な辞職勧告によりやむなく書かされたものである。一、私は勧告の内容については断じて承認していません。従つてこのような勧告による不当な辞職について今後も大いに斗います。一、言動の自由を確保するため一応辞表を書きました」と附記して提出したことが認められるが右附記は、退職願を提出するに至る事情を述べ不本意ながら退職願を提出する趣旨を明にしたものと解すべく、退職願の効力の発生を条件にかからしめる趣旨とは解するに由なく、また右原告らが右退職願を提出するに際し意思の自由を喪失していたものと認むるには足らないものというほかはない。従つて右退職願を一応退職の意思を表明したものと解せざるを得ない。而して以上の原告等が退職願を提出するに至つた消息については、可成り同情すべきものがあり、かたがた被告側の措置に遺憾のふしもうかがわれなくはないが、さればといつて、右退職願が原告等のいうようにこれに基く免職処分を違法ならしめるような瑕疵を帯びるもの乃至それほどいちじるしい不当性をもつものと認めることはできないのである。然らば右免職処分を違法とする主張はその理由がないものである。

以上説示のとおりであるから、原告伊神、金子、弘中、新井等の本件休職処分の取消請求並びに前記(三)及び(四)に掲げた原告等の各免職処分の取消請求は、いずれもこれを不適法として却下し、その余の前記(一)及び(二)の原告等の本訴請求については、理由がないので、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 脇屋寿夫 三和田大士 西迪雄)

(別紙目録省略)

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